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■ 自責 ■
2014.10.31
 2004年5月、在上海日本総領事館の館員(46)が中国情報当局から外交機密などの提供を強要され、自殺した事件がありました。妻あてに残した遺書に、「当局者と会うことになっています。おれを電信官と知っている以上、絶対にシステムのことや電報の内容を聞いてきます。おれは絶対に国を売ることはできないし、死ぬまでヤツらに追い回される苦しみ、自責の念にさいなまれることは、耐えられないことです」と自殺に至った心境が書かれていました。
 紀元八〇~八五年に成立した『マタイによる福音書』にも、銀貨三十枚のためにイエスを裏切ったユダは、イエスが有罪判決を受けると、卑劣な行為を行ったという自責の念から首を吊ったと書かれています。このように場合によっては、自分の命を絶つことになりうる自責という心理現象は昔からあるのです。私たちの日常生活でも、自分がしたことに不満を感じると「自分はダメだなぁ・・・」とか「あの時どうしてこうしなかったんだろう!」などと自分で自分を責める気持ちが生じることがよくあります。このような心の状態が自責なのです。
 自責の心理状態の背景をみると、例えば、仕事でミスをした自分に「何てバカなことをしたんだろう」と自分に腹を立てたとします。その不満の背景を分析すると、仕事のミスを上司に叱られたらどうしようという不安があることが分かります。それは上司に叱られる不安の原因をつくった自分を自分自身で責めているのです。対人関係で生じたストレスが自分を攻撃する形をとっているのが自責の心理の構造です。
 このように自責は対人関係の障害によって生じ、自分自身の存在を否定する性質があります。人との不快な感情の交流が人間関係を壊し共存を妨げることになるのです。
(森 正博)
ストレスの原因
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